講演会:院内で制作された作品のトリセツ「医療とアートの狭間の倫理」~著作権と守秘義務について~

臨床倫理×著作権!?

おそらく史上初めて。医療とアートを考える会の記念すべきファーストイベントはある意味、実験的な試みと切り口に。

琉球大学医学部附属病院 地域医療部所属の臨床倫理士、金城隆展 先生をお招きして、院内の造形活動で生まれた作品の著作権について講演して頂きました。

 

人生とは「私たちが何かを選ぶこと」の総和
『臨床においてモヤモヤし「何かおかしいぞ」「これってどうなの?」「腑に落ちない」と感じたとき、そこでしっかりと立ち止まって何をなすべきかを考える態度・姿勢こそが倫理的なのである。』

初めに倫理とは何ぞやというところから始まり、似た言葉として『道徳』をあげ、二つの言葉の違いについて丁寧に解説して頂きました。以下は『臨床倫理とナラティヴのススメ ―立ち止まり物語る倫理―』からの引用となります。

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『手順を踏むことに関しては、①もやもや感・腑に落ちない感を大切にして立ち止まる、②情報の収集・整理・評価、③倫理問題の認識と分析、④取りうる選択肢の吟味・益害の比較考量、⑤患者/家族/医療従事者による共同意思決定、という5つのステップを踏むことを推奨したい。』
『参照することに関しては、①個別の道徳、②規則・綱領・ガイドライン、③倫理原則・倫理理論、④価値の源泉という4つのレベルを「倫理的はしご」を登るかのように、自分たちの考えや選択を照らし合わせることが肝要である。』

『対話・協議に関しては、自分の道徳は不完全であるが故に信頼しすぎることなく、独断・独善に陥らないように、1度で決めるのではなく手順を踏みながら、根気強く対話・協議を続け、1人ではなくみんなで決めていくことが大切である。』

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道徳とは、よりパーソナルな、その人の内なる体験や育ってきた環境・文化、個々人の価値観に基づくモノになります。

一人称が道徳なら、三人称は倫理ということでしょうか。より客観性(あるいは普遍性)を重視しているという点で、倫理は科学的なアプローチと言えるのかも知れません。

 

倫理的な態度・姿勢で著作権を考える
「法律の専門家ではない」という断りを最初に入れた上で、金城先生がこれまで扱ってきた実際の事例――提供された病理検体の著作権・所有権は誰にあるか、という倫理問題をもとに医学ベースの臨床倫理的法律論とでもいうべきお話を聞かせて頂きました。

一般社団法人 日本病理学会倫理委員会の病理検体の保管に関するガイドラインの変遷を語り、実際に医学の場で論じられている“患者の権利”と“医療側の権利”について、分かりやすい言葉や医学以外の例え(音楽CD等)を用いて、解説されていました。なお参考までに日本病理学会の現在の見解(リンク先:日本病理学会ホームページ)は以下の通りとなります。

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『1. 病理検体の保管に際しては、患者の尊厳とプライバシーが保護されなければならない。診断書、顕微鏡標本、パラフィン・ブロックあるいは肉眼写真についても同様である。

『2. 医療機関あるいは病理医としての業務遂行、すなわち病因と病態の解明に資するため、検体由来者である患者やその家族から病理検体の全部あるいはその一部の返還要請があったとしても、正当な利用や適切な管理が担保されない限り、返却・譲与すべきではない。
『3. ただし、正当な理由の記載された文書による求めがあれば、返却することとする。
『4. なお、返却に伴う病理検体の保管に関しては、公序良俗に反する事態が起こらないよう、保管者に誓約を求める必要がある。』

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講演会でお話されたのは、2の『病理検体の全部あるいはその一部の返還要請があった場合』のケースでした。

元となるもの(病理検体)に加工がなされた場合、その加工を施した人にも著作権が発生します。ちなみに所有権とはその著作物を所有する権利のことです。

 

院内作業療法の倫理
患者と作業療法士が話し合い、一種の共同作業で一つの作品を作り上げていく院内の造形活動では、作者とその家族、作業療法士だけではなく、場所や道具を提供している病院側も含めて密にコミュニケーションを取り、作品の取り扱い(著作権)や守秘義務(作品展示の際の情報開示)について、誰か一人の独断・独善に陥ることなく、院外の先進的な事例を参照しつつ対話を重ね、皆で一緒にナラティヴ(物語)を作り上げていくことが重要になる。金城先生との話し合いの中で以上のような示唆を得ることができました。

圧倒的な情報量のスライドショーを前に、2時間という時間はあまりに短く、まさにあっという間でした。時間切れで結局すべてのスライドを見ることはかなわず。印象的だったのは「法律は最低限の倫理」という言葉です。金城先生、お忙しい中ご講演頂き、ありがとうございました。

 

編集:津波古 祥太

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